IBMは、Starlingによって2029年までに現在の量子コンピュータの20,000倍の計算能力を実現しようとしている。この目標に向け、IBMはHRLの電子スピン技術を取得する計画を進め、AMD製品上でリアルタイム制御を実行したほか、2030年にはCiscoとネットワーク接続の実証に取り組む。1つの性能目標が、買収案件、汎用品を使った制御装置、長距離ネットワークを結び付けている。
要点
- 量子技術の進展を測る尺度は、物理量子ビット数から、誤り訂正、遅延の少ない古典制御、ソフトウェア、用途別の処理を連携させて生み出す、信頼性の高い論理演算へと移りつつある。
- IBMが提案しているHRL買収では、既存の超伝導方式に電子スピン量子回路が加わる。IBMは共通の信頼性指標を用いて、2つのハードウェア方式を比較できるようになる。
- Starlingが掲げる2029年までに現在の20,000倍という目標は、プロセッサ単体の性能指標ではなく、システム全体の統合試験に当たる。IBMは、構想する耐故障型製品をまだ実用化していない。
- IBMはAMD製品による制御とCiscoとのネットワーク実証を開発計画に組み込み、古典制御装置と相互接続も重視している。IonQとD-Waveによる買収からは、競合各社も製造能力や誤り訂正技術の内製化を進めていることが分かる。
- 導入を検討する企業は、量子プロセッサの仕様だけで実証実験を判断すべきではない。総所要時間、処理全体の誤り、制御遅延、支援体制を含む複合的な処理工程を評価する必要がある。
開発目標を左右するのは演算の信頼性
2015年、IBMは重大な量子誤りを2種類検出する方法を確立した。何が起きたかを量子計算機が特定できるようになり、計算結果を利用できるまで保持するための初期段階に到達した。
2017年、IBMは20量子ビットのクラウドサービスと50量子ビットの試作機を計画した。2019年には、53量子ビットの汎用機を外部に公開した。開発者がより大規模な計算機でプログラムを動かし、実際の利用を通じて不具合を洗い出せるようになった。
また、比較対象とした2024年と2026年の期間では、IBMを扱う報道のうち、企業利用を重視するものが増え、研究を重視するものは減った。
| 切り口 | 2024年の比較対象期間 | 2026年の比較対象期間 |
|---|---|---|
| 企業利用 | 32.3% | 42.9% |
| 研究 | 22.6% | 5.7% |
IBMは現在、Starlingを2029年に達成すべき耐故障性能の目標と位置付けている。一方、MicrosoftとQuantinuumは、誤りなしで14,000回を超える実験を行ったと発表した。いずれの目標も、誤り訂正を経ても計算を継続できることに重点を置いている。
IBMは、誤り訂正、復号、制御電子回路、ソフトウェアを連携させ、信頼性の高い論理演算を実現しなければならない。Starlingの20,000倍という数値は、その成果を測るものだ。
HRL買収でIBMは第2の量子回路方式を得る
IBMによるHRL Laboratories買収契約が重要なのは、IBMがすでに大規模な量子ハードウェア開発を進めているためだ。IBMは超伝導方式の開発計画を継続しながら、HRLの電子スピン量子回路を自社の量子コンピュータに組み込む方針だ。
IBMの主力計画は超伝導ハードウェアを採用する一方、HRLは電子スピン回路を開発している。MicrosoftのMajorana 1は、1,000,000量子ビットを実現し得る手段としてマヨラナ粒子を利用する。IBM、HRL、Microsoftは、実用機を目指して今なお異なる物理方式を追求している。
買収が完了すれば、IBMは超伝導ハードウェアと同じ信頼性指標で電子スピン回路を評価できる。基礎となる物理方式が定まっていないなか、社内で異なる設計を比較できるようになる。
ただしIBMの技術者は、HRLの回路を、すでに開発計画に含まれる制御層やソフトウェア層と統合しなければならない。Starlingは依然として2029年の目標であり、IBMは構想する耐故障型製品をまだ実用化していない。
IBMは制御とネットワークにも期限を設けた
IBMは、広く市販されているAMDの書き換え可能なゲートアレイ上で、主要な量子アルゴリズムをリアルタイム実行したと発表した。これにより、遅延と信頼性が計算結果を左右する重要な処理経路に、古典計算用ハードウェアが組み込まれた。
IBMとCiscoは、2030年までに量子コンピュータ同士を長距離接続する概念実証を計画している。IBMはプロセッサ周辺の2つの接点に期限を設定した。現在取り組むリアルタイムの古典制御と、2030年までに実証する長距離の量子相互接続だ。
3社が重要能力の内製化に動く
IonQは約$1.8 billionでSkyWaterを買収し、半導体メーカーを傘下に収めた。D-Waveは、誤り訂正機能を備えたゲート方式の技術を開発するQuantum Circuitsを$550 millionで買収することで合意した。IBMが計画するHRL買収では、既存のハードウェア開発に電子スピン回路の研究が加わる。
IonQは今後、素子開発とSkyWaterの製造業務を連携できる。D-Waveは買収が完了すれば、ゲート方式の誤り訂正技術を社内に取り込める。IBMは、評価対象となる新たな物理方式を獲得する。
Quantinuumは募集規模を拡大した新規株式公開で$1.68 billionを調達し、評価額は$15.6 billionとなった。同社の提出書類によると、March 31までの3カ月間は、売上高$5.2 millionに対して純損失$136.6 millionを計上した。
投資家はQuantinuumの評価額を、再現可能な論理演算、製造技術の進展、実務工程の改善と照らし合わせて検証すべきだ。同社の3カ月間の売上高と損失を見る限り、この評価額を正当化できるかどうかは、今後何年にもわたる技術開発の成否にかかっている。
化学分野では処理工程全体を評価すべきだ
IBMは、主に量子物理学の模擬計算と、化学・材料科学の課題を対象とする10件の量子計算プロジェクトを発表した。MicrosoftとQuantinuumは、誤り訂正の取り組みを、高性能計算、AI、量子計算を組み合わせた化学分野の課題に適用した。
量子計算の実証実験を検討する化学分野のチームは、まず分子または材料に関する具体的な課題を定め、現在の高性能計算による基準値を取得すべきだ。そのうえで、複合処理全体の所要時間、処理全体の誤り率、制御遅延、支援体制を測る。量子計算を組み込むことで、統合に見合うだけの改善が得られたかを判断できる。
IBMの20,000倍という目標は、2029年に実現を目指す計算機を1つの数値で表している。Starlingがこの目標を達成するには、誤り訂正、リアルタイム制御、顧客の業務工程を通じて論理演算を維持しなければならない。この数値が示すのは、計算成果を確実に保持するシステム全体の能力だ。
IBMを扱う報道は研究から企業利用へ軸足を移した
| 報道の切り口 | 2024年の比較対象期間 | 2026年の比較対象期間 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 企業利用 | 32.3% | 42.9% | +10.6パーセントポイント |
| 研究 | 22.6% | 5.7% | −16.9パーセントポイント |
よくある質問
IBMがStarlingで掲げる目標は何か
IBMは、Starlingによって2029年までに現在の量子コンピュータの20,000倍の計算能力を実現するとしている。この目標を達成するには、誤り訂正、復号、制御電子回路、ソフトウェアを連携させ、信頼性の高い論理演算を実現する必要がある。
IBMがHRL Laboratoriesを買収しようとしている理由は何か
HRLの買収により、IBMの既存の超伝導方式に電子スピン量子回路が加わる。買収が完了すれば、IBMは2つの物理方式を社内で比較しながら、双方を自社の制御基盤とソフトウェア基盤に統合できる。
IBMの量子技術開発でAMD製品はどのような役割を担うのか
IBMは、広く市販されているAMDの書き換え可能なゲートアレイ上で、主要な量子アルゴリズムをリアルタイム実行したと発表した。これにより、古典制御の遅延と信頼性が量子システムの性能を左右する要素となる。
企業は量子化学の実証実験をどう評価すべきか
分子または材料に関する具体的な課題を定め、高性能計算による基準値を取得したうえで、総所要時間、処理全体の誤り率、制御遅延、複合処理に対する支援体制を比較すべきだ。重要なのは、量子計算を組み込むことで、統合に見合うほど処理全体が改善するかどうかである。
IBMとCiscoの共同計画は何を実証するのか
IBMとCiscoは、2030年までに量子コンピュータ同士を長距離接続する概念実証を計画している。単独のプロセッサからネットワーク化された量子システムへ移行するために必要な相互接続層を検証する。