10年前、Googleは媒体社のサイトへ1人を送り返すごとに、2ページを巡回していた。Cloudflare CEOのMatthew Princeによれば、現在は18対1だ。Google Searchがウェブから取得する情報は増えているのに、最新の検索画面では利用者がウェブサイトを訪れる必要性そのものが薄れている。
要点
- AI Overviewsは、開かれたウェブを支えてきた暗黙の交換条件を崩している。検索事業者は媒体社のコンテンツを取り込む一方、送り返す利用者を減らし、ウェブサイトを訪問先から上流の情報供給元へ変えつつある。
- 回答を直接示す検索は、従来の検索が外部サイトへ渡していた購買意欲を自社内にとどめられる。広告表示や手続きの完了までを同じ画面で担える半面、継続的な推論費用やコンテンツ利用料も負担することになる。
- 媒体社は、送客を対価とする仕組みに代えて、巡回、保存、出典表示、回答の根拠としての利用、学習への利用を明示的に管理し始めた。独自性が高く、鮮度のあるコンテンツほど価格交渉力が強い。
- 競争と規制の焦点は、検索順位からさらに上流へ移っている。端末の初期設定、検索データ、情報源の利用許可、計算能力、推論を実行する場所が新たな争点だ。
クリックは検索市場の決済手段だった
かつての検索をめぐる取引条件は、契約書に記されていたわけではない。それでも仕組みを見れば内容は明白だった。巡回プログラムがページを複製して索引を作り、順位付けによって整理し、クリックによって利用者を情報提供元の媒体社へ送る。Googleは情報を見つける過程から収益を得る一方、媒体社には購読契約、広告表示、商品購入、利用者との直接的な関係づくりにつなげる機会が生まれた。
当初、AIはこの構図をむしろ補強していた。Googleは2020年、検索におけるAIについて、ウェブページ内の個々の文章を索引化し、ページのうち必要な箇所をより正確に取り出すための技術だと説明していた。AIが改善したのは利用者を適切な情報へ導く機能であり、最終的な閲覧先は依然として外部サイトだった。
AI Overviewsは、検索がどこで完了するかを変えた。Googleは2024年末までにこの機能を10億人超へ提供すると表明し、生成回答を実験段階から大衆向けの検索画面へ移した。検索結果のページだけで複数の情報源をまとめ、十分な回答を示せるようになれば、利用者はウェブ上の企業や媒体を訪れずに、その情報だけを受け取れる。
米国のGoogle利用者900人による約69,000件の検索を調べた研究では、18%でAI Overviewsが表示された。通常の検索結果が引き続き多数を占め、生成回答からリンクをクリックする利用者もいた。しかしAI Overviewが表示された検索でリンクがクリックされた割合は8%にとどまり、表示されなかった場合は15%だった。交換関係を変えるのに、すべての青いリンクを置き換える必要はない。クリックしなくて済む場面を少しずつ増やすだけで十分だった。
May 2025には、ニュース検索の69%が外部サイトへの移動なしで終了した。1年前の56%から増えている。Cloudflareによれば、AI検索の普及に伴い、多くの企業サイトへの人間による訪問は40%近く減少した。期間はJune 2025からApril 2026までだ。
Princeが示した巡回数と訪問者数の比率は、従来の交換条件を数字で表している。Googleが1人を送り返すまでに取り込めるページ数が増えたのは、利用者が情報源へ到達する前に、回答機能がその情報を消費するからだ。索引の役割が失われたのではない。かつてクリックの先で行われていた仕事まで、索引を基に検索画面内で完了できるようになった。
Wall Street Journalは、AI検索について、青いリンクによる検索を全面的に置き換えるものというより、使い勝手を刷新する取り組みに近いと結論づけた。これは最も有力な反論だが、構造変化そのものを覆すものではない。案内一覧を画面内に残したままでも、検索はそこで完結できる。重要なのは、リンクが画面のどこかに残っているかではなく、外部サイトへの移動が利用者の通常の終着点であり続けるかどうかだ。
回答機能が、かつて外へ渡していた需要を囲い込む
検索を支えていた役割分担は、Googleが収益化可能な利用意図を外部へ送り出すことで成り立っていた。靴、保険、旅行、病気の症状に関する検索には、購買や購読につながる価値がある。しかし媒体社や販売事業者がその価値を取り込めるのは、利用者が実際に訪れた場合だけだった。回答を先に示す検索は、情報探しから問題解決までを1つの画面にまとめる。
GoogleがAI Overviews内で検索広告と商品広告を試す方針を示し、広告主の既存施策を利用するとしたことは、回答機能が購買意欲を取り込むために大がかりな仕組みの変更を必要としないことを物語る。媒体社への訪問が減る一方、広告は生成回答の中へ引き上げられる。
AI Overviewの文中に組み込まれたリンクの一部は、外部の媒体社へ直接つながらず、別のGoogle Search結果ページへ移動する。Googleは、こうしたリンクによって利用者が話題を掘り下げ、関連サイトを見つけやすくなるとしている。実際、その効果はある。同時に、情報源を訪れるまでにGoogle内の手順がもう1つ増えることにもなる。同じ仕掛けが情報発見を助けることも、利用者の関心を自社内にとどめることもできる。どちらが主になるかは画面設計次第だ。
報道によれば、OpenAIは一部の操作をウェブサイトへ引き渡さず、ChatGPTのような画面内にとどめる閲覧ソフトを計画していた。利用者を自社内にとどめることは、業界全体の設計目標になりつつある。作業の完了先を案内するだけの支援機能より、作業そのものを終えられる支援機能のほうが、価値の高い需要を支配できるからだ。
予測処理の費用が下がるにつれ、企業間の競争は、予測だけでは得られない資産をめぐるものになる。信頼できる最新情報、利用画面の初期設定、広告主との関係、計算能力、情報源を利用する権利である。従来の検索は、訪問先を並べ替えることで価値を生んだ。回答を直接示す仕組みは、かつて訪問先で行われていた仕事を取り込むことで価値を生む。
送客が消えれば、利用許可そのものが商品になる
媒体社が広範な巡回を受け入れてきたのは、検索からの送客が現物による対価として機能していたからだ。巡回する側と媒体社が、互いに相手の持つものを得られる限り、この取引は暗黙のままでも成り立った。送客が減れば、媒体社の交渉力は利用許可の境界に移る。コンテンツの巡回、保存、出典表示、回答の根拠としての利用、学習や即時検索への利用を認めるかどうかである。
コンテンツ利用許諾サービスを利用する160のウェブサイトをTollBitが分析したところ、AI検索からの送客はGoogle Searchより96%少なかった。出典を示すだけでは、この不足を埋められない。情報源の名称を表示すれば帰属は明らかになるが、それは訪問ではない。訪問もまた、自動的に収益になるわけではない。それぞれ別の経済的価値を持つ。
MicrosoftはCondé Nast、Hearst、Associated PressなどとともにPublisher Content Marketplaceを開設し、この違いを明確にした。媒体社は利用条件を定め、使用状況を追跡し、AIが利用許諾済みの有料コンテンツを根拠に回答した際に対価を受け取れる。この市場は、暗黙の慣行だった巡回を、利用量に応じて課金する商品へ変える。
CNNは反対側から同じ転換を示した。2025年にPerplexityとの条件交渉がまとまらなかった後、同社がコンテンツを無断で複製・配布したとして提訴したのである。重要なのは訴状の内容以上に、交渉が決裂した事実だ。送客が十分な対価でなくなれば、アクセスには価格が付くか、紛争になる。
すべての媒体社が同じ交渉力を持つわけではない。最新で、権威があり、独自性の高い情報は、よくある検索語に合わせて作られた一般的なページより代替しにくい。市場を設ければ権利をまとめられるが、回答を作る側が別の場所から入手できるコンテンツに希少性を生み出すことはできない。開かれたウェブは、価格の付く情報、代替可能な情報、提供を拒まれる情報へ分かれ始めている。
利用者を囲い込むほど、処理費用が積み上がる
リンク一覧の表示は、情報を取得し、トークンを処理し、回答をまとめ、ときには数回の対話を続ける生成回答に比べて安い。検索画面内に利用者をとどめれば、そのやり取りに伴う継続的な推論費用も自社に残る。利用者の関心を多く取り込むほど、その一つひとつに計算費用が発生する。
Barclaysは、推論向けの設備投資が2年以内に学習向けを上回り、2026年には$208.2 billionへ達すると予測した。報道によると、OpenAIの技術者は推論費用を半分以下にできる可能性のある手法を見つけた。小さな効率改善でも、繰り返される膨大な問い合わせに掛け合わせれば、大きな価値を生むことが分かる。
関係者によれば、Googleは非公式にFrozen v2と呼ばれる専用サーバー半導体を開発しており、Geminiのモデル設計を半導体に組み込み、2028年の導入を計画しているという。この計画はあくまで未確認情報であり、Googleが正式に発表した製品計画ではない。実現すれば、利用者を検索画面内にとどめる費用を下げられる可能性がある。自社内に残る問い合わせは、そのたびに推論費用を生むからだ。
クラウドという抽象的な言葉の先には、資金調達された設備がある。ある研究は、Alphabet、Microsoft、Amazon、Meta、Oracleの簿外債務が2022年以降に約8倍へ増え、$1.65 trillionに達したと推計した。GPU契約、データセンターの賃貸契約、共同事業に伴うものだ。こうした債務は、電力付きの計算能力を確保する長期契約と並んで存在する。コンクリート造りの建物、電力接続、演算装置を並べた棚、賃料の支払いが支えているのは、「別のタブを開かずに済んだ」という点が最も目立つ検索画面である。
回答を自社内で完結させれば、検索事業者は広告機会を保持し、媒体社へ返す訪問者を減らせる。その一方で、推論費用を負担し、今後は差別化されたコンテンツにも対価を支払う必要がある。従来の仕組みは、最後に発生する高価な処理を訪問先のサイトへ委ねていた。新しい仕組みは、価値をより多く内部化すると同時に、費用もより多く抱え込む。
規制が追うのはページではなく、入口の支配力だ
従来は、検索結果ページ上の位置が訪問者の行き先を決めたため、順位付けの規則が市場を左右していた。回答を先に示す検索では、争点となる資産はさらに手前かつ深い場所にある。質問を最初に受け取る端末の初期設定、クリックが必要かどうかを決める画面、仕組みを改善する検索データ、回答へ取り込む情報を決める情報源側の管理権限である。
EUのDigital Markets Actに基づく決定は、Googleに対し、競合するAI支援機能や検索事業者がAndroidと一部のSearchデータへ同等に接続できるよう求めている。規制当局は、支援機能への接続と検索データを競争基盤として扱っている。どれほど優れた競合モデルでも利用者へ届く経路がなければ見えないままであり、競合する仕組みも情報源へ接続できなければ十分な情報を得られない。
PerplexityのComputer機能は、処理を端末内のモデルとクラウド上のモデルに分け、個人情報を端末内に保ちながらトークン効率を最大化する。すべての操作を中央で処理する必要はなく、どの支援機能も同じ設備費を負担するとは限らない。競合企業は、初期設定、データへの接続、権利契約、推論を行う物理的な場所を通じて入口の支配に対抗できる。
規制によってAndroidへの接続を開放したり、一部のSearchデータ共有を義務付けたりすることはできる。しかし、検索ページだけで作業を終えられると利用者が知った以上、従来の送客による交換関係を復元することはできない。媒体社は利用許諾を求めたり、情報提供を拒んだりできるが、出典表示を訪問と同じ商機へ変えることはできない。ウェブ上の訪問先は、利用者との間に立つ仕組みへ情報を供給する立場に変わった。
18対1という巡回数と訪問者数の比率は、その取引明細だ。Googleの看板には今も青いリンクが残る。しかし処理は同社のデータセンターで完了し、媒体社は利用許諾を手に搬入口で待っている。
よくある質問
Google AI Overviewsによってクリックはどれほど減るのか?
米国の利用者900人による約69,000件の検索を調べた研究では、AI Overviewが表示された検索でリンクがクリックされた割合は8%で、表示されなかった場合は15%だった。調査対象の検索のうち18%でAI Overviewsが表示された。
Googleの「巡回18対訪問1」という比率は何を意味するのか?
Cloudflare CEOのMatthew Princeによれば、Googleが媒体社のサイトへ1人を送り返すまでに巡回するページ数は現在18で、10年前は1人当たり2ページだった。比率の拡大は、Googleが情報源から取得する量を増やす一方、媒体社へ返す訪問者を減らしていることを示す。
出典表示で、媒体社は失われた訪問者の分を補えるのか?
出典表示だけでは補えない。出典表示は情報の帰属を明らかにするが、訪問には広告、購読、購入、利用者との直接的な関係を生む可能性がある。TollBitが顧客の160サイトを調べたところ、AI検索からの送客はGoogle Searchより96%少なかった。
媒体社はAI検索事業者からどのように対価を得ようとしているのか?
一部の媒体社は、MicrosoftのPublisher Content Marketplaceのような仕組みを通じてコンテンツの利用を許諾している。媒体社は条件を定め、利用状況を確認し、自社の情報がAI回答の根拠に使われた際に対価を受け取れる。交渉がまとまらなければ、アクセスを拒否したり、2025年にPerplexityとの協議が不調に終わったCNNのように訴訟を起こしたりする場合もある。
回答を先に示す検索は、なぜ維持費が高くなり得るのか?
生成回答には、情報の取得、トークン処理、推論が必要であり、ときには複数回の対話にわたって処理が続く。回答を提供する事業者は広告機会をより多く保持できる一方、計算費用を負担し、希少性と権威のある情報源へ対価を支払う必要も生じる。